普段は知ることのできない向井潤吉アトリエ館の舞台裏を、
関係者のコメントで紹介します。
第1回は、当館の担当学芸員による、耐震化工事の舞台裏を紹介します
◆第1回◆ 矢野進
(学芸員/世田谷美術館学芸部美術担当課長/向井潤吉アトリエ館担当)
テーマ:「耐震補強工事を振り返って」
 早いもので開館20年となります。ちょうどアトリエ館が開館する頃、私は世田谷美術館から世田谷文学館開設準備室に移りました。 そして4年前の2009年4月に古巣の美術館に異動となり、耐震補強工事で休館中の向井潤吉アトリエ館の再開準備に当たることになりました。今回はその耐震補強工事を振り返ってみます。

 2009の3月16日より耐震補強工事のため休館し、数ヶ月にわたる耐震調査を経て、10月から本格的に工事が始まりました。主な工事箇所は土台と壁面の補強です。これまでの雰囲気を壊さぬよう細心の注意が払われました。床板は一枚一枚外したあとにきちんと元に戻せるよう番号を振って保管。床下には補強のためにコンクリートが流されました。
 壁面も1階の事務所(元台所)や暖炉のあるアトリエ附近は壁を剥がして鉄の筋交いで補強されました。目に見える変化は、母屋と土蔵にそれぞれ壁から1メートくらい柱を加えたために、壁面が突き出したこと。そして2階からアトリエを見下ろすテラス部分に筋交いが入ったことくらいでしょうか。何度か訪れたことがあっても気がつかない程度のさりげない工事です。
 2010年4月27日(火)の再開初日は雨模様で生憎のお天気でしたが、開館と同時に待ちかねたファンの皆さんが訪れ、家屋と庭の変わらぬたたずまいを楽しんでいかれました。連休に入ってからは好天に恵まれて、来館者も途切れること無く、小さな美術館にとっては嬉しいことに毎日150名近い来館がありました。
 
 東日本大震災はその11ヶ月後に起きたのです。向井館も3月11日は激しく揺れましたが、工事の甲斐あって、白壁にほんの少しヒビが入っただけで済みました。この時ほど耐震化の必要性を切実に感じたことはありませんでした。
 開館20周年を迎え、向井潤吉作品とともに、このアトリエ館とその庭の景色がいつまでも継承されてゆくことを願ってやみません。